上手な歯医者さんを教えてください。

 最近、耳にした出来事です。
  あるとき歯科医であるKさんは 友達のXさんから「どこか上手な歯医者さんを教えて」とたずねられました。Kさんの頭に浮かんだのは、いくつもの学会やスタディーグループに所属し、講演などもしていて同業者が見ても腕は良い、そしてなによりも正直でまじめなA先生のことでした。Kさんは自分が治療してもらうとしてもA先生が良いと思っているので、迷うことなく、「その地区ならA歯科がお勧めです。」といいました。

 実はXさんは以前から歯のことでたびたび苦労していました。引っ越してきてからもいろいろな歯科にかかりましたが、Xさんにとって納得のいく治療ではありませんでした。
そして最近、うわさを手がかりにY歯科医院にかかりました。Y歯科院は最近できたきれいな病院で、先生も若くて優しく治療してくれました。けれども一向に状況は改善しません。相変わらずいろんな歯に問題が出てきます。

そこで、「歯科医のKさんなら上手な歯医者さんを知っているのでは」と思い、Kさんに尋ねたのです。

 歯科医のお勧めの歯医者さんですから、今度は期待してA歯科院を受診しました。確かに病院も清潔で、しっかり治療計画を説明してくれました。
A先生から「治療の方針などで何か御希望はありますか?」とたずねられたので、「歯の治療に時間をかけられないので、一度にたくさんの歯を治療して、回数をかけずに早く終わって欲しいですけど・・・」と答えました。
 A先生は優しくて患者さんの希望を尊重する先生でしたので、「そうですか。なるべく早く終わったほうが良いですからね。でも、私が提案した治療計画よりも早く終わるようにすると、時間をかけたときと比べて、治療の結果は思わしくないかもしれませんが、それでもいいですか?」とたずねました。するとXさんいわく、「え?、早く、ちゃんとして欲しいのですけど・・・・。」

  さて、以下は住人の推測ですが、Xさんに「上手でない」と評価されたY先生は 優しくて、ある意味患者さんの希望どおりに治療したのではないでしょうか。 Xさんは自分の希望どうりに早く治療してくれたY先生の結果が思わしくないのがなぜなのかまだお気付きでないようです。 そうです。患者さんの立場からすれば、早く、回数も少なく治療して欲しいものです。そして現在の多くの歯科医師はその患者さんのニーズは十分承知していますので、最大限早く、短期間に終わるよう努めています。つまり、それ以上短期間に、早く終わらせることは治療としてふさわしくないのに、それ以上の回数や時間の短縮を要求されたらあなたが歯科医ならどうしますか?
歯科医の選択肢は3つです。
①良くない治療であることは説明せずにだまって引き受ける。
②嫌われる覚悟でよくない治療であることを説明し続ける。
③嫌われる覚悟で良くない治療であることを患者さんに納得していただいて上で治療を引き受ける。
 今度はあなたが患者さんの立場だったらどの先生を選びますか?

 都市部などで歯科医院が過密状態になっている現在、Y先生のように無理なニーズと知りつつ患者さんを失いたくないので、患者さんの言いなりになる先生は少なくありません。
 Y先生は優しいがゆえにとうてい無理な早い治療を心がけ、その結果Xさんの満足が得られなかったのかもしれません。お口の問題が短期間、短時間で終えることのできる範囲を超えていたと思われます。
Xさんにとって、「歯科医としては到底無理な治療回数と短時間で、しかも問題が生じない歯医者さんが上手な歯医者さんで、どこかにそんな歯医者さんがいると考え、そんな歯科医師を求めてさまよっているような気がします。

 住人もよく、知り合いからお勧めの歯科医の紹介を求められます。そんなときに住人はまず、「あなたにとって上手な歯医者さんとはどんな歯医者さんですか?」と聞くようにしています。
 とにかく早く終わってくれる歯医者がご希望かもしれませんし、最高の治療をご希望な場合もあるでしょう。
ですから、その人が希望することによって、紹介する歯医者さんは当然違ってくるのです。

住人のスタンスはA先生同様③です。患者さんにはそれぞれ事情があり、理屈抜きに速く終わってほしいこともあることを十分承知しているからです。しかし、 例え話をしましょう。あなたが予定の新幹線に乗り遅れそうで、タクシーに乗ったときに「運転手さん少し急いでください。XX時の新幹線に乗りたいのです。」と告げたとしましょう。運転手さんが「がってん承知」とばかりに猛スピードでぶっ飛ばして事故を起こしたとしたら、あなたはきっと「事故を起こしてまで急げとは頼んでいない!」となるのではないでしょうか。

 では患者さんとしてどうすればよいでしょう。例えば歯医者さんから提示された治療計画が自分には長いと思われたなら・・・例えば、
a.長持ちすることが前提でその範囲で出来るだけ早く終わってほしい
   a-1.自分が通える範囲で出来るだけよい治療になるよう治療する歯を少なくする。
   a-2.それも無理なら今回は応急処置にとどめる。
b.良くない治療であることは理解したことを歯科医に伝えたうえで、それでも大急ぎでの治療を依頼する。

  歯科医師過剰と医療費削減で、歯科医にとって収入が減ることは問題ですが、むしろ、患者さんに嫌われまいとするあまり、言われたとおりにすると問題が起こることも黙って引き受けてしまい、かえって歯科全体の信用を失うことが本当に問題だと思います。お互い聞く耳を持って、ちょっと信用してみて、本音と本音で十分コミュニケーションをとることをお勧めします。患者さんと歯科医が良好な関係を築けて、みんなハッピーになることを願ってやみません。

>>>歯医者と患者さんがよりよい関係で長く付き合っていくために
>>>歯の治療は痛くなく、早く、安く、きれいに、丈夫で長持ち、は可能ですか?

目で見るお口の百科家庭の歯学

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  • 作者: 増田 純一
  • 出版社/メーカー: クインテッセンス出版
  • 発売日: 1990/06/01
  • メディア: 大型本
法起寺 奈良県生駒郡斑鳩町岡本

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