歯科治療と価格
よく我が家にも受付に次のような電話がかかってくることがあります。
「そちらではインプラント1本おいくらですか?」 >>> インプラントとは
お気持ちはお察しいたしますが、こういう質問をなさる方は歯科治療を誤解なさっていると思います。それは自動車や家電品と同じように「インプラント」といえば全国どこの歯科医院でも同じものが手に入る。と誤解なさっているのです。
本来、歯の治療はそれぞれの方のお口の状態や希望されるものは様々であるため、オーダーメードの治療であるべきものです。しかし保険診療に関しましては 厚生省から使用する材料や手順が厳密に決められており、診療代はテナント料や土地代の高い都会であろうと、田舎であろうと、歯科医師1年目であろうと、ベテラン30年目であろうと同一料金です。いわば既製品の服みたいなものです。しかも最低限の治療レベルを保険しているにすぎません。
しかしながら自由診療の場合、患者さんの希望により、治療する範囲、使用する材料、保証する期間などは患者さんとの相談の上で決まるものです。当然歯科医院によってそれらはまちまちですので価格だけで良し悪しを決めてもあまり意味がありません。セラミックなどの 審美歯科治療においては使用するセラミックや金属、接着剤、技工を担当する技術者などはさらに差が出ます。
住人もデジタルカメラなど購入するときは「価格.○○○」といったサイトを利用します。それはニコン製の△△△というカメラといえば、北海道のお店で買おうと沖縄のお店で買おうと届く品物はほぼ同じと考えてよいからです。パソコンの前に寝転んでいて、ネットにある全国のお店の価格がわかり、注文できるこの「便利さ」はネット社会でなければ得られなかったことでしょう。
一方歯科治療の特殊性からいって、上記と同じ理由でインターネットによる歯科治療に関する価格比較サイトというのはあまり意味がありません。→ 口コミランキングサイトについて
以前問題になったマンションやホテルの偽装問題を思い出してみてください。もちろん悪いのは偽装したり、だました人間です。でも「安物買いの・・・・」というのは昔からあることわざです。値段は大切な判断基準だと思いますが、「保証期間は?」「使うマテリアルは?」と実際その歯科医師と対面して話を聞いてみて、何よりもこの先生を信用してお任せしてよいかどうかを御自身で確認して納得するのが一番です。もし「一度歯科医院に入ったらそこに決めないといけないのでは」とお考えの方がいらっしゃったら、それはまったく御心配には及びません。大切な体の治療ですから、セカンドオピニオンといわず、いくつもの診療所で相談なさって決められるとよいと思います。
歯科医師と患者さんの信頼関係がさらに強くなるように願わずにはおられません。
次に保険診療について考えます。 歯が悪くなっっていよいよ歯医者さんに行かなければ・・・という時、皆さんが思うことは「前回治療したのにまた?回数がかかって、費用もかかるし・・・」ではないでしょうか。 近年、国家の財政危機により医療費の抑制政策がとられていますが、日本の歯科治療費は高いのでしょうか?そんなに日本の歯医者は儲けているのでしょうか?どのように歯医者さんとかかわるのがコストパホーマンスがいいでしょう? 根管治療(歯の根の治療)などは日本では6000円程度ですが欧米では5~10倍、クラウン(金属のかぶせ物)も日本では約9000円ですが高福祉国家で有名なスウェーデンでも42000円、日本が市場原理主義で目標にしている米国でも65000円~130000円もします。(日本歯科医師会HPより参照)つまり歯科治療費は先進国の中で日本は破格の安さで提供できているのです。 例えば年に何回も海外旅行に行ったり、ブランド品を買っても、歯にはお金をかけたくないヒトなどにしてみれば、保険の治療でも高いとおっしゃるかもしれません。安いか高いかはそれぞれの方の健康観や価値観の問題で人それぞれと思いますが、住人は海外に比べると日本の治療は安いと思います。(海外と比較して良質かどうかは別ですが・・・) しかも昨年より明細のわかる領収書の発行が義務ずけられましたが、医科と歯科で領収書をもらったことのある方は比べてみてください。初診料や再診療が歯科では医科ほどかかっていないはずです。お医者さんの能力の高さは否定しませんが、歯科では感染防止のために器具の滅菌や消毒にかなりコストがかかっていますが、まったく考慮されていません。このことは歯科医師の政治力の弱さの問題ですが、なぜ歯科と医科で初診料や再診料が異なるのかその理論背景はあいまいなままです。 それではなぜそんなに安くできているのでしょう。費用の高い安いを議論するときに考えないといけないことはいくつかあります。 1、コストの中に安全性やサービスなどが含まれているかどうか。 わかりやすい例としては 商品で国産?vs中国製? 日本人の安全性やサービスに対する要求は日々高まっています。中国製の食品や商品が安いのは人件費はもちろん安全性などへの対策コストが入っていないからでしょう。皆さんがさらなる安全性やサービス(病院がきれい、説明に時間をかける、スタッフが多くて待たなくてよい、・・・)を求めるならスタッフ増員や設備にコストをかけないといけません。このコストを保険診療の中では国は見てくれてません。すべて歯科医師の手出しです。 2、物としての値段だけでなく、どれくらいの知識や技術が詰め込まれた商品なのか。 わかりやすい例としては 高級腕時計?Vs偽物の腕時計? 現在の歯科の費用は 昔1割だったのが3割負担になったり患者さんの負担は増えていますが、総額そのものは理屈ぬきで削減されています。そしてその治療内容というのは実は何十年も前からある治療法であり、新しい治療法はほとんど保険で認められていません。今後も医療費は削減方向でしょうから、新しい治療法が保険に導入されることはまずないでしょう。そういう意味ではどんどん時代遅れでしかも安っぽい腕時計になりつつあります。 3、最後に教育や医療という分野がそもそも「高い」、「安い」といった市場原理主義(市場原理で商品の値段が決まる)がなじむ分野かどうかです。 住人は医療と教育にコストという考えを持ち込むべきでないと考えます。 歯科治療において「手間ひま」かければ結果のよい治療ができることは前回説明しましたが、このことは教育と同じです。そして、市場原理が入ってくると当然よい治療法は高額でお金の払えないヒトは受けられないということになります。 以上を考えても日本の皆保険制度は多少「安かろう悪かろう」の部分もありますが、決して高くなく、きわめて良好な制度だったと思います。だったと過去形なのは改めて産科医不足の例を出すまでもなく、郵政民営化とおなじ政治の流れの中でどんどん劣化していっているからです。5~6年前に住人が「今に老人医療費は高くなるので今のうちにきちっと治療しておいたほうがいいですよ。」とアドバイスして、聞き入れてくだっさった患者さんからは「あの時きちっと治療しておいてよかった」と今になって本当に感謝されています。 現在、まじめな技工士さんや衛生士さんは技術や努力の割にはまったく報われていません。歯科治療がこの安さで成り立っているとしたら、それはこのような人たちの犠牲の上に成り立っています。歯科医がひとりで儲けているのかというとそうでもありません。昔から多くのまじめな歯科医師は保険の料金の中でその範囲を超えたよい治療(たとえよい治療であっても法的にはしてはいけないことになっている)を行い(当然不採算ですが)それでもなんとか食っていけていました。これは政治主導でなく、欧米並みの理想的なよい治療を提供したいと考える歯科医師の想いがそうさせていたのです。しかしながら現在の法的な締め付けと医療費抑制政策の中ではそのようなよい治療を行うことをあきらめる歯科医が増えてきました。そして時代の風潮が、簡単な(しかも採算に合う)治療を早く、安く、スマートにおこなう歯科医が一般人からの受けもよいので、隠れ重症患者が増えているのが現実です。保険診療というのは皆さんの税金の中から7割の費用が給付されていますので、税金から多くの予算が歯科の健康保険の予算に向けられれば、高い技術やサービスが可能となります。つまり皆さんが保健医療の充実を希望して、政治を動かせば変わる可能性があります。しかし、個人の患者さんや歯科医師のレベルでグズグズ言っても変えられるものではありません。 話を元に戻しますが、現在の日本の医療制度の中で、軽症の疾患であれば保険診療の中で十分よい治療が可能でありその費用は他国と比べても十分安いものであるといえます。 参考文献
食卓の向こう側 (第12部) (西日本新聞ブックレット No. 23)
[結論]
そこで、現在のところ個人でできるだけ歯科の医療費を抑えるための上手な歯医者さんのかかり方は
健康なうちに予防に費用をかけて、悪くなったら早めにキチット治療をする。
めんどくさい話ですが、自分のお口の全体としての問題点を説明してもらい把握したうえで、どのように治療するか考える。少なくとも「治療のメリットデメリット」を歯科医に説明してもらい納得した上で治療に取り掛かりましょう。保険診療の中でもさまざまな治療オプション(治療費が安いものから高いものまで)があります。問題点を残したままで予防に費用をかけても報われない場合もあります。
悪いところを治療した上で、予防にコストをかけると健康が維持できるうえにトータルコストは安くなります。
億劫がらずに、まずは健康なうちに歯医者さんでお口のクリーニング(
PMTC)をしてもらいましょう。
近いからというような理由でなく、信頼できる歯医者さんにかかることが大切なのはいうまでもありません。