がん治療と口腔(こうくう)ケア
我が家にお見えの患者さんにも、初めてお見えになったときにすでにガンの手術をなさったことのある方や、久しぶりにお見えになって、前回の治療以降に、ガンの手術を受けた方などいらっしゃいます。
皆さん、「全身の治療と歯の治療は関係ないだろう 」「たかが歯の治療なので、大丈夫だろう」と考えられておられるのか、全身の病気のことはあまり話していただけないことがあります。
しかし、実はそうでもないのです。
がんの治療は、がんそのものに対する作用だけでなく歯や歯肉を含め全身に影響を与える可能性があります1)。
がん治療による歯や歯肉への副作用には、歯肉を含めた口腔粘膜の腫れ、ただれ、潰瘍形成(口内炎)、感染、味覚の変化、口の渇き、痛み、むしば、歯がぐらぐらする、歯肉の萎縮の他、あごの骨への影響などがあります。
このため、がんの治療を受けている患者さんにとって、正しい口腔ケアの習慣を身につけることはとても重要です。
また、口腔内を健康につためには、がん治療の主治医(以下、主治医)、かかりつけの歯科医(以下、歯科医)、そして患者さんの三者が良好なコミュニケーションを築くことが大切です。
歯科医には、あなたががん治療を受けていることを、また主治医には、あなたの歯科治療歴を把握しておいてもらう必要があります。
がんの治療を始める前に
○歯科検診とデンタルクリーニング(歯面清掃)を受けましょう。
また、がん治療中も定期的に歯科の検診を受けましょう。
○抜歯や歯科インプラント埋め込みなどの歯科処置を行う場合は、事前に主治医とも話し合いましょう。
○入れ歯を使用している場合には歯科医の検診を受け、調整してもらいましょう。
○歯肉からの出血、歯や歯肉の痛みや違和感など、口腔内に異常がある場合には歯科医と共に主治医にも伝えてください。
がん患者さんもがんにかかつていない人も、日常の口腔ケアが大切であることに違いはありませんが、がん治療が歯や歯肉に影響を及ぼす可能性があるため、口腔ケアはがん患者さんにとって特に重要です1)。
いつもの口腔ケアで実践すること
○毎食後と就寝前にやわらかい歯ブラシで歯と舌のブラッシングを行います。
歯ブラシには力を入れずに磨きましょう。
○一日に一度はデンタルフロスを使用し、ていねいに歯垢(しこう)を取り除きましょう(歯肉からの出血や痛みがある場合には、患部を避けなければなりませんが、ほかの歯にはデンタルフロスを使用してください)。
(住人注;デンタルフロスが適している方もいれば、歯間ブラシやスーパーフロス、ワンタフトブラシなど、最適なものはそれぞれのお口の状況によって異なります。詳しくは歯科医にお尋ね下さい)
○水で頻繁に口をすすぎ、口の中を常に湿った状態に保ちます(多くの医薬品は「口腔乾燥(口の渇き)」をもたらすため、むしばやその他の歯科疾患を引き起こす可能性があります)。
(住人注;それぞれの方の状況によります。主治医や歯科医にご相談下さい)
○アルコール配合のマウスウォッシュ(洗口液)は刺激が強いためなるべく使用を避けてください。
ただれや歯肉からの出血といった変化がみられないか、鏡を使って歯と歯肉を毎日チェックしましょう。何らかの異常や変化に気づいたり、口腔、歯またはあごに痛みがある場合には、すくに歯科医か主治医に相談してください。
口腔ケアは、がんの治療中は特に重要です。
がんの治療を始める前にはできるだけ早く歯科医を受診し、歯科治療が必要であればがん治療を受ける前にすませましょう。
◎歯科医に、あなたががんの治療を受けていることを必ず知らせてください。
(住人注;全身の状況と歯科治療は密接な関係があります。『歯の治療には関係ないだろう」ではなく、主治医からいただいているお薬などあなたの現在の状態をできるだけ詳しく教えて下さい。
放射線治療やビイスホスホネート系の注射やお薬、ステロイド剤などを受けている患者さんの場合、歯科治療を行うに当たって注意が必要な場合があります。)
◎主治医には、あなたの歯科治療歴を知らせてください。
◎歯科医と主治医とが互いに相談できるよう、双方に相手の病院名や医師名を知らせておきましょう。
参考文献
1)For the dental patient:oral care for cancer patients.AmDent Assoc.2002 133(7):1014.
2〉National Cancer Insdtute、Oral complications of chemotherapy and head neck radiadon(PDQ).2004.
3)Managing the care of patients with bisphosphonate-associated osteonecrosis.AM Dent.Assoc.2005 136:1658
以上 以下文献の一部より引用
がん治療中の口腔ケア ノバルティス ファーマ株式会社
<監修>
徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 生体情報内科学 教授 松本俊夫先生
大阪大学大学院 歯学研究科 生化学講座教授 米田俊之先生
大阪大学大学院 医学系研究科乳腺・内分泌外科学 教授 野口眞三郎先生
東京医科大学 乳腺科教授 河野範男先生
名古屋市立緑市民病院 院長 名古屋大学大学院医学研究科 臨床教授 清水一之先生
兵庫医科大学 歯科口腔外科学講座 教授 浦出雅裕先生
参考HP
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骨粗しょう症とビスホスホネート系薬剤