入れ歯が合わないってそもそもどういうこと?(痛い編)
聞くところによると「デンタルフロス市場は、2006年が68億円(前年比7.1%増)に達し、2007年が70億円(前年比2.9%増)を見込む。」そうである。
一方「入れ歯安定剤市場は、・・・現在、約112億円の市場規模です・・・。」そうである。
歯医者が言うのもなんであるが、いかに入れ歯でご不自由なさっている方が多いかの証左である。
歯医者に行って、歯と歯がなくなった部分の形を採り、噛みあわせを採って、場合によっては完成前に試適(確認)までしたのに・・・。せっかく歯医者で入れ歯作ったのに痛くてかめない。なぜこんな悲劇が起こるかを一緒に考えて見ましょう。
入れ歯を作る作業は前述したようにそれほど複雑ではありません。お口の形を採って、かみ合わせを採るだけです。
ですから、痛くて咬めない原因はそのどちらかにありそうです。素人考えで十分なので一緒に考えて見ましょう。
そもそも歯医者さんで入れ歯を作るには、形を採るジェル状の物やクリーム状の物(印象材)をお口の中に入れて固まるのを待ってから、石膏を流してお口と同じ寸法の模型を作ります。これらのものは歯に金属のかぶせ物をするなどの他の歯科治療でも使用するものですので、そんなに精度が悪いわけではありません。
ですから、入れ歯の形の精度が悪くて(あってなくて)痛いということは本来ないはずなのです。
形を採る工程にも痛みの出る原因がないわけではありません。入れ歯の場合、柔らかい歯ぐきの形を採らなくてはいけないのです。歯ぐきはご自分でさわってみてもお解りのように、柔らかくてぶよぶよ動く歯茎や引き締まって硬い歯茎、薄い歯ぐき、厚い歯茎、お口の中でも場所によって様々です。つまりそもそも変形するものの形を採らないといけないのです。
出来上がった入れ歯を形が変わるほど「バリバり」削る光景をご覧になった方があると思います。しかし、2mmも3mmも削らないといけないほど材料の精度は悪くないですし、歯ぐきの変異量にしてもそれほど多くはありません。
ではなぜ痛くて咬めずに、入れ歯の内面を形が変わるほど削らないといけないのでしょう。
住人は多くの原因は「かみ合わせ」にあると思います。
かみ合わせに問題があると
・入れ歯が動く
・入れ歯が歯ぐきに食い込む
入れ歯が咬むたびに3次元的に動くと、入れ歯が動き終わった終着点が強く歯ぐきに当たって痛みます。痛い部分を削っても、削っても入れ歯が動く限り痛みは取れない可能性があります。
均一に入れ歯に力がかからず(均一にかみ合わず)強くかみ合っている部分があると、その部分はより強く歯ぐきに食い込むことになります。
入れ歯が痛い原因は多くはこのような上下のかみ合わせに問題があることが多いのです。
この根本的な問題を解決せずに入れ歯安定材に頼りすぎてしまうと、急速に歯ぐきが痩せてしまったり、ますます不具合がひどくなることになります。
なぜこのようなかみ合わせに問題が生じるのでしょう。
まず、患者さんのお口の中の問題として、
・歯が全部そろっていたときからかみ合わせに問題があった。
・残っている歯のかみ合わせに問題がある。
・顎の関節に問題がある。
下のあごが大きく突き出ていて、上の顎が引っ込んでいたり、その逆であったり、顎の大きさがアンバランスであったり、歯並びに問題があると、入れ歯でのトラブルが起こりやすくなります。
また、歯を失ったままの状態で放置したために、残っている歯の噛み合わせに問題が出てきたり、歯周病で歯が動いてしまってかみ合わせがデコボコと壊れてしまっている場合はスムーズでストレスのない噛みあわせの運動が出来なくなっていることがあります。そして、そのようなかみ合わせの問題が長期間解決されなかったため、顎関節(あごの関節)に問題が生じている場合などはさらに問題は複雑になります。
かみ合わせに問題があると、咬む度に、咬む位置が変わったり、体が無意識にトラブルを回避しようと不自然な顎の動きになったりします。
歯が割れてしまったりとか、かみ合わせに問題があって歯を抜いた経験があるような方は特に、根本の問題点を解決せずに、入れ歯だけ作り変えても問題が解決することは難しいかもしれません。
もちろん患者さんのお口の問題だけではありません。
歯科医の技量の問題もあります。ご高齢の先生に入れ歯が上手な先生がいらっしゃいます。
住人は「患者さんの噛みあわせを採るときは歯科医の実力発揮の場であり、職人技が発揮できる。」と思います。
若い歯科医の中には「インプラントなど先端医療には関心を示すが、入れ歯になじみが薄い」先生もいらっしゃるようですが、かみ合わせという点では実は技術的にインプラントと入れ歯は密接につながっているので、入れ歯が上手な先生のインプラントは長持ちするだろうと思います。
最後に、噛み合わせはちょっとしたことで変化します。
新しい入れ歯を入れただけで、入れる前と変化します。それは例えば、舌が接している部分の入れ歯の感触が変化しただけでも、舌や顎の周囲の筋肉に変化が現れるからです。
今まで噛めなかったのが、噛めるようになれば筋肉のつき方も使い方も変化しますし、その結果として咬み合わせは変化します。ですから、患者さんが入れ歯に慣れてくるとともに噛み合わせも変化してくるのです。
かみ合わせが変化するとそれに合わせた調整が必要になります。
「新しい入れ歯を入れたら治療は終わり」とお考えの方が多いようですが、実は入れ歯を新しく作ってセットした後に根気よく噛み合わせの調整を行ったほうがより体になじむのです。歯科医で「自分が入れた入れ歯は全く調整しなくてよい」などと自慢する歯科医を住人は信用しません。入れ歯を入れた後もかみ合わせの調整などメインテナンスが大変重要になります。
入れ歯はそれを構成する材料はほぼどこの病院でも同じですが、これまでお話したように、患者さんのお口の状態も日々刻々と変化しており、歯科医の技量、考え方も異なります。同じ入れ歯は世界に二つとありません。
今日の住人の一言
入れ歯が痛い原因の多くはかみ合わせの問題です。
入れ歯を削るのでなく、かみ合わせの調整をしてもらいましょう。
次回は「入れ歯の気持ち悪い編」を思案中です。
参考ブログ
>>>磁石式(マグネット式)の入れ歯
>>>総入れ歯について
図説 歯科医学の歴史 マルヴィン・E・リング 西村書店
1538年になくなった日本の尼僧の入れ歯 自身がツゲの木を彫って作ったものといわれている。