歯(噛み合わせ、虫歯)と肩こりの関係
患者さんから伺ったのですが、「肩こり、聴力が歯科で改善」と題して、頭痛、耳鳴り、手足のしびれと歯科の関係を放送していたそうです。
そこで、今回はかみ合わせについてです。
最初に今回の結論を申し上げると「歯や噛み合わせを治療することで、諸問題が解決することもあるが、解決しないこともあり、その関連性は完全に科学的に証明されているものではない」のです。
我が家でも患者さんから、「肩こりがひどいのですが歯と関係ありますか?」との質問をいろいろな場面でされます。あまり多く聞かれるので、「どこかで、誰かが「歯が痛いのは肩こりが原因でしょう」あるいは「肩こりがひどいのは歯が原因でしょう」と簡単に言っているのではないだろうか」と穿った考えが頭をよぎったりもします。
以下、場面に分けて考えて見ましょう。
場面1 むし歯や歯ぐきが腫れてお見えになった患者さんの場合
人間の体は免疫機構によって感染に対して防御しています。体調が落ちてくると当然免疫機能も低下している可能性があります。体調が落ちている原因はさまざまなストレスかもしれません。ストレスが強ければ肩がこることもあるでしょう。
つまり「歯→肩こり」、「肩こり→歯」ではなくて、「ストレス→肩こり、かつ、ストレス→歯」ということは十分考えられます。
このような場合肩こりとの関係は別として、明らかにお口の中にむし歯などの問題があればまずその歯を治療すればよいのでそう問題となることはありません。悪いところを治療してついでに肩こりが治れば「ラッキー」と思えばよいことです。
場面2 「口が開きにくい、顎が「コキ、コキ」「ジャリ、ジャリ」音がする」と顎の関節に不具合を訴えて来院される患者さんの場合
ところで、皆さんは、上あごと下あごの間に物を挟んで筋肉が縮むことで噛み砕いているのです。その
下あごは頭や首や肩の筋肉に吊り下げられた、「ゆりかご」のような形になっています。ですから(上あごが疲れることはありませんが、)、使い方によっては あごが筋肉痛になることもあるでしょうし、片方ばかりで咬むと左右のバランスが崩れ、不具合も出てきます。(使ってるほうの筋肉と、使ってないほうの筋肉で、差が出てくるので、顔の左右が非対称になったり)、かみ合わせに問題があって、(無意識のうちに)かむときの顎の軌道が不自然になっている場合(急激にかみ合わせが変化することはまれなので、ご本人の自覚はほとんどない)、その不自然な運動によるストレスが筋肉に蓄積されると、肩こりなどの症状となって現れることがあります。
昔から顎関節症と肩こりや耳鳴り、頭痛などの症状との関連性は補綴学会などで言われています。住人も少なからず関係があると考えています。しかし、マウスピースを一時的に入れただけで改善される方もいらっしゃれば、マウスピースが一生離せなくなる方もいらっしゃいます。歯科医と整体師の連携が必要な場合もあります。
矯正をしたり全体的に歯を削って噛み合わせの治療を行うと改善することもありますが、そうすれば100%治ることが保証されているわけではありません。そして、かみ合わせ以外のストレスや心理的な問題など、そしてその他の病気が原因で、顎の関節にトラブルが生じることがあることも念頭においておかなければなりません。我が家でかみ合わせの治療をするときも、十分時間をかけて患者さんと相談した上で、取り掛かるようにしております。詳しくはかかりつけの歯科医にお尋ねください。
場面3 歯がしみるということで来院される患者さんの場合。
患者さんは歯がしみる→むし歯と考えがちです。しかしながら歯がしみる原因は虫歯だけではないのです。最近はテレビCMで「知覚過敏」という言葉を皆さんも聞いたことがあると思います。(ちなみに咬合が原因の知覚過敏の場合、お薬を塗っても一時的な改善しか見られない場合が多い) 昔は歯ブラシのやりすぎで歯が削れたり、知覚過敏症になると言われていたこともあります。しかし現在ではDCS(Dental Compression Syndrome)、咬合病などと呼ばれ、噛み合わせが原因で、歯がしみたり、歯周病が悪化したり、歯と歯ぐきの境目の部分の歯が削れたり(楔状欠損と言われている)することは明らかになっています。
我が家でも、レントゲンを撮ってみてそんなに大きな虫歯がないのに歯がしみたり、痛んだりされて来院される患者さんが結構いらっしゃいます。そんな多くの患者さんは噛み合わせに問題があり、咬合病が疑われます。そしてこのようなかみ合わせに問題があれば、肩こりがひどくなる可能性は考えられます。(100%絶対ではありません)
余談ですが、そんな患者さんは今までもずいぶん歯が虫歯でないのに痛んだのでしょう。レントゲンを見ると、多くの歯がたいしてひどいむし歯ではなかったように住人には思える歯の神経を取って、金属が被せてあります。(こういう方はいままでも歯のことでのお悩みが多く、肩こりもひどいことが多いように思われる)
このような患者さんに住人のようにグズグズ説明をするよりも「スパっと」神経を取ってしまい、症状を取ってあげる歯科医のほうが患者さんからすると名医に見えるかもしれません。(基本的な問題解決にはならないばかりか、どんどん歯を削って、神経を取っているのですが・・・・)
しかし、もっと早くこの患者さんが「この痛みや「しみ」は虫歯が原因ではない」と理解していたら、はたして神経を取っていただろうか、自分が患者さんだったら・・・」そんな思いが住人の頭をよぎります。患者さんは患者さんで、住人が説明しだすと「今回は1本の歯が痛んできたのに噛み合わせがどうのこうのと言われても・・・」と困惑されるだろうことは十分理解できます。
今回も神経を取ってしまえば当面その歯が痛むことはなくなります。患者さんも歯医者もその場しのぎにはなります。しかしながら、かみ合わせに問題があれば、今度は他の歯がしみだす可能性があるのです。噛みあわせを考慮せずに1本1本治療してゆくとますますかみ合わせの問題が増える可能性があります。(結構思い当たる節のある方がいらっしゃるのではないでしょうか。いかがですか?)
問題は患者さんがご自分の状態を完全に理解されずに治療が進んでいることです。
すべてを納得して神経を取って被せているのであれば問題ありません。住人が状態を説明すると「わかりました、けど我慢できないし、全体的にかみ合わせの治療が出来る状況でもないので、この歯の神経を取ってください」とおっしゃる患者さんもいれば、「虫歯でないのなら我慢できますので治療しなくて良いです」とおっしゃる患者さんもけっこういらっしゃいます。どちらもそれはそれでOKだと思います。
大切なことは「かみ合わせに問題があるのであれば、噛みあわせを治療しないと問題の解決にはならない」ことや、現在のご自分の状態を正確に理解して、その治療法、治る可能性などを十分に理解しておくことです。
余談が長すぎました。本題に戻ります。住人もインプラントや歯周病の治療、再生療法、審美歯科治療など日々行っていますが、歯科医が「歯科の実力」を発揮できるのは「かみ合わせの診断と治療」だと考えています。
むし歯や歯周病はそんなに難しい病気ではありませんし、場合によっては他の医師でも理解できると思います。しかし咬合理論を習っているのは歯科医だけです。
住人は、噛み合わせが原因ではないかと思われる知覚過敏、むし歯、歯周病、顎関節症、肩こりや耳鳴りなどの諸問題があることを経験的に知っています。「この患者さん噛み合わせの治療したら今訴えられている肩こりもひょっとしたら治るかもしれない」と思うことはよくあります。そして、何も特別なことをしなくても地道にこつこつ歯と噛み合わせの治療をすれば患者さんから「肩こりがウソのように治った」とかいわれることも結構あります。歯周病などはご本人のプラークコントロール(歯磨きなど)はそんなに悪くないのに、かみ合わせが原因で急速に進行していることがよくあります。
しかし、頭痛や耳鳴りなどがすべて噛みあわせの治療しても改善するとは限らないことも事実です。
ですから住人は「肩こりが治るから歯の治療や噛み合わせの治療をしませんか」とは決して言いません。
こんな患者さんがいらっしゃいました。
「「食事のときに咀嚼をすると、無意識のうちに目がまばたきをする」ということを他の歯科医に相談したら、「噛み合わせが原因かもしれない」と言われたので、矯正治療をしたほうが良いでしょうか。」とのことです。
この患者さんがおっしゃっていることはすべて正しいと思います。そして、このような患者さんにまず理解して頂きたいのは「ひょっとして噛み合わせが原因ではないかもしれない(噛み合わせの治療をしても治らないかもしれない)ですが、それでも噛み合わせの治療に費用と時間をかけることを納得されますか?」ということです。
この患者さんの場合、真の原因は噛み合わせかもしれませんし、他にも三叉神経系や顔面神経系の問題、心理的な問題なども考えられるわけです。まずは医師の診断を受けるべきだと思います。そして、医師から問題ないと診断されたとしても、噛み合わせが原因であることを現在の歯科医学で科学的に証明するのは難しいと思います。かりに証明できたとしても、どうして噛み合わせの治療をすれば100%「まばたき」がとめられると証明できるでしょうか。
医療は100%でないことを理解して取り掛かるべきですし、残念ながらそんな患者さんの悩みに付け込む人間がいることも考慮に入れておくべきです。
「噛みあわせとさまざまな症状との関係」は科学的にある程度根拠のあるものと根拠が希薄なものがあるということです。そして、さまざまな考え方の歯科医師がいて、さまざまな説明をします。
中にはまじめで、卓越した診断力で学会等の研究による科学的根拠はないけれども(普通の歯科医には到底見抜けないが)きちっとわかる先生もいるかも知れない。
悪意もないかわりに、全く根拠もなしに本気で「治る」と信じている歯科医もいるかもしれません。
噛み合わせの治療など、前の状態に戻れない治療は「この先生ならたとえ治らなくても納得」という信頼関係が患者さんと歯科医師の間にないと危険です。
科学的に根拠がないものに関して、住人のコメントは歯切れが悪くなりますが、このようなことに関して「絶対に○×」と言った断言口調でものを言う歯科医を住人は信用しません。何事も断言できるほど そこまで歯科医学は進歩していません。
では専門家ではない皆さんはどうすればよいでしょう。
この先生の言うことなら信用できる。その先生にかかって仮にうまくいかなくてもしょうがないと納得できる人間関係の歯医者さんをまず見つけましょう。そしてその歯医者さんに相談しましょう。そうすればその結果に対してもすべて納得がいくのではないでしょうか。
肩こりがひどいの場合などその辛さはお察ししたします。肩こりがひどくて、お医者さんで点滴をしてもらっている方もいるようです。かみ合わせの治療で、それが軽減するのであれば、日本の医療費はもっと安くて済みますし、なによりもご自身が楽になればこんなよい事はありません。
参考HP
>>>肩こりと歯は関係がありますか?
>>>
世の中のからくりについて考える
>>>
日本顎咬合学会