副鼻腔炎と歯の関係
副鼻腔炎とは鼻腔(鼻の内部の空間)につながる副鼻腔という空間に炎症が起こる病気です。副鼻腔というのは耳鼻科の領域で副鼻腔炎も耳鼻科の縄張りです。副鼻腔炎は「蓄膿症(ちくのうしょう)」とも呼ばれます。 副鼻腔炎はかなり強い痛みを伴います。いくつかある副鼻腔のうち上顎洞(じょうがくどう)と呼ばれるのものは、上の奥歯の根とも近接しているため、その痛みを歯の痛みと勘違いされて歯科に来院される患者さんがいらっしゃいます。
上顎(上のあごの)の真ん中から2番目3番目あたりの痛みを訴えられたり、どこか判らないがとにかく上の歯が痛いと訴えられる患者さんがいらっしゃいます。
その部分に明らかに治療の必要なむし歯などがあれば、治療を開始してもよいのですが、痛みそうな虫歯がなかったり、あるいは軽度のむし歯に対して治療したのに痛みが軽減しない場合は副鼻腔炎も疑ってみる必要があります。
我が家でも虫歯がないのに強い痛みを訴えられた患者さんや治療しても痛みが軽減しない患者さんに耳鼻科の受診を勧めたら上顎洞炎などの副鼻腔炎だったことが結構あります。
患者さんにしてみれば、痛みが激烈であればあるほどややパニック的に「説明はいいから、なんとかこの痛みを取り除いてほしい」と強く思われるようです。けれども「痛み」は主観的なものであり、個人差があり、どの場所がどの程度痛いかを数値化するのはなかなか難しいのです。歯が痛んでいるのか、副鼻腔が痛んでいるのかは なかなか判りにくいようです。ここでもいつも申し上げるように医療に100%はありません。
レントゲンを撮っても「むし歯になってない」あるいは「歯の根っこが化膿していない」ような歯でも患者さんが歯の痛みと思い込んでしまい、ズバリ「この歯が痛い」と訴えられると、歯科医としては(特に優しい歯科医は)患者さんの訴える歯を治療することがあるようです。けれども治療しても痛みが取れない場合はさらに踏み込んだ歯科治療を行う前に耳鼻科などを受診してみてください。
耳鼻科を受診して何も問題ないと言われれば、その時改めて歯の治療に取り掛かってもあまり手遅れになることはないと思います。「歯が化膿しているという診断」のもと抗生物質を飲んだら、タマタマ副鼻腔炎のほうにも効いて症状が軽快することもあります。このような場合本来の原因である副鼻腔炎に気づかないままになったしまう恐れがあります。
先日、お痛みの若い女性が我が家に来られました。上の前歯の真ん中から2番目、3番目辺りの歯がひどく痛いとのことでした。住人がレントゲンを撮ってみると確かにその部分にむし歯がありましたが、少し気になることがありました。痛んでいるとおっしゃっている歯の周囲の歯がそれほどひどいむし歯だったようには思えないのに、以前かかっていた歯医者さんは歯の神経を取って治療していたのです。
「神経を取らないといけないほどひどいむし歯ではなかったようだがなー」と疑問に思いながらも、新しくできたむし歯の治療を1本だけ行い、痛みが取れなければ連絡するようお伝えしてその日は終わりました。
想像通り次の日の土曜日に「痛みが取れない」と連絡が入りました。ここで住人はほぼ確信したのですが、すぐに来院してもらい、残りのもう1本の虫歯の治療をしましたが、ご本人にこれで痛みがおさまらないようなら神経を取ったり踏み込んだ歯科治療をする前に耳鼻科を受診するようお伝えして、翌週に念のため我が家のアポイントを取っていただきました。
案の定、翌週に来院された時にその後の状況をうかがうと、「土曜日に我が家で治療したあとも痛みが取れないので、休日急患センターで耳鼻科を受診したところ、副鼻腔に炎症があるようなのでお薬を出していただき、それを飲んだら、痛みが取れた。」とのことでした。
やはり住人の予想が当たったのです。仏心をだして、何とかしてあげようと思い歯の神経を取ったりしなくて本当によかったと思いました。確証はありませんが、ひょっとすると以前にも副鼻腔の痛みを歯の痛みと勘違いされたのかもしれません。
上の奥歯のむし歯を治療せずに放置していた場合などに歯の根っこの先が化膿し、その炎症が上顎洞まで及んで、上顎洞炎になることもあります。場合このような場合は、しっかり歯科治療を行わないと治りませんし、耳鼻科と歯科が連携して治療を進める必要があることもあります。 上あごの痛みがひどいときは最初はどちらの先生でもかまいませんが、状態を詳しく説明しましょう。歯科においては副鼻腔炎と歯の関係を診断、区別する上でも鮮明なX線写真の撮影が必要です。そして状況があまり変わらなければ、複数の診療科による総合的な診断をしてもらう必要があると思います。